2011年02月01日
「え、この駅 自動改札じゃないの? なんか人がいるしw うけるwww」
そんな会話を、田舎の観光地に行くとよく耳にする。『自動改札』が当たり前だと思っている人の目には、『手動改札』は "非常に珍しいもの" として映るらしい。多くの場合は、驚きと共に嘲笑が混じっている。
都市部に住む人は、自分の普段見ている世界が標準だと思い、田舎に住んでいる人も、(自分たちの世界ではなく)都市部の光景が標準だと思いがちである。実際、人口の大半が都市部に集中しているのだから、そう思うのも仕方がない。しかし、その「標準」だと思い込んでいる世界は、面積にすると日本の領土のごく一部分に過ぎないのだ。
全国各地を列車で旅している人は、自動改札よりも手動改札の駅の方が多いことを経験的に知っているだろう。多くの地方路線では、自動改札なんてなかなかお目にかかれない。また都市部であっても、たとえば政令指定都市の広島駅なんかは、2005年まで自動改札がなかった。よって、自動改札がスタンダードだと思い込むのは早計なのである。
しかしこの事実を人に話したところで、「ホントなの??」と疑問の目を向けられるだけである。思い込みを払拭するためには、実体験、もしくは揺ぎない確固たるデータが必要である。ここは一つ、定量的に自動改札の設置数を示さねばなるまい。そう思った私は、さっそく図書館へと向かった。
鉄道に関する統計データは、『鉄道統計年報』という本に集計されている。目的の自動改札に関しては、その中の『停車場電気設備表』に記載があった。
停車場電気設備表には、その名の通り全国の全鉄道・全路線の電気設備数が載っている。これを見れば『自動放送設置駅数』や、『監視用テレビジョン設置駅数』まで分かってしまうという、一般人には一生知る必要がないと思われる非常にマニアックな数値が満載である。
この資料から、JRの全路線を対象に、自動改札の設置駅がいくつあるかを集計してみた。地味な作業であるので、その過程は省略し、結果をいきなり発表してしまう。
・JR北海道
駅数:465、うち自動改札設置駅数:58
⇒ 自動改札比率:約12.5%・JR東日本
駅数:1728、うち自動改札設置駅数:713
⇒ 自動改札比率:約41.3%・JR東海
駅数:417、うち自動改札設置駅数:138
⇒ 自動改札比率:約33.1%・JR西日本
駅数:1224、うち自動改札設置駅数:446
⇒ 自動改札比率:約36.4%・JR四国
駅数:259、うち自動改札設置駅数:1
⇒ 自動改札比率:約0.0%・JR九州
駅数:557、うち自動改札設置駅数:108
⇒ 自動改札比率:約19.4%・JR計
駅数:4650、うち自動改札設置駅数:1464
⇒ 自動改札比率:約31.5%(出典:平成19年度鉄道統計年報)
以上。
これで明確に、自動改札はJR全駅の31.5%にしか設置されていないということが分かった。図書館に平成19年度版の鉄道統計年報しかなかったため、データが少し古くなっているのはご容赦願いたい(たとえばJR四国の自動改札設置駅数は、現在2駅になっている。ちなみにその2駅は高知駅と高松駅)。
改めてデータを見てみると、実に3駅に2駅は手動改札なのだ。よって、手動改札を見て「珍しい!」というのはおかしいし、マイノリティをあざ笑うのもおかしい。日本は思いのほか広く、自分の世界での常識が、実は物理的に狭い範囲だけを見た常識だということが沢山ある。思い込みを捨て、広い視野をもって日常生活をおくりたいものである。