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電波時計に最高の贅沢を

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うちにある電波時計は、ほとんど電波を受信することがない。おそらく、鉄筋コンクリートのマンションに住んでいるせいだろう。

それなのに、毎日決められた時間に電波の受信を開始し、必死に時刻合わせをしようとする電波時計。そんな姿を見ていると、本来の性能が発揮できない場所に置いている私が悪いように思えてきて、何だか申し訳ない気持ちになってきた。

『電波時計を、思いっきり電波が受信できる場所に連れて行ってあげたい』

そんな思いを抱いた私は、電波時計と一緒に旅に出た。目指すは、電波の発信源である「はがね山標準電波送信所」である。

電波時計の憂鬱

電波時計が受信している電波(標準電波という)は、福島県の「おおたかどや山標準電波送信所」と、福岡県と佐賀県の境界にある「はがね山標準電波送信所」から送信されている。そして日本列島のほぼ全域が、この2箇所から送信された電波でカバーされているようだ。

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私が住んでいるのは大阪なので、どちらの送信所からも500km程度の距離がある。それでも外に出れば、それなりに標準電波を受信することができる。実際に、私が使っている電波受信機能付きの腕時計は、外出した時に時刻を合わせるようにしている。

しかし、これが鉄筋コンクリートの建物内となると、電波の受信は絶望的と言ってよい。私の家にある2台の据え置き型電波時計も、毎日がんばって受信しようとしているけれど、残念ながら全く受信できていない。

ここで、今回登場してもらう我が家の電波時計を紹介したい。

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(1) SEIKO KR314M
目覚まし時計として、枕元で使用している電波時計。しかし全く電波を受信できないので、最盛期(?)には10分ほど時刻が進んでいた。

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(2) CASIO DQC-100NJ
デスクに置いて、日常的に使っている電波時計。日付表示が大きいので重宝しているが、やはり全く電波を受信できない。

これらの電波時計は、私が言うのもなんだけど、すごくがんばっている。どれだけがんばっているのか、1つ目のSEIKOの電波時計の場合を見てみよう。

この時計は、取説によると一日に8回、自動的に電波を受信する設計になっているようだ。つまりは、一週間で56回、一ヶ月で240回、一年ではなんと2920回もの受信動作をしていることになる。
しかし、7年ほど使っていて、電波を受信できたのは実に1回だけである。その1回もほとんど奇跡と言ってよく、たまたま受信できているのを発見した時には、思わず部屋の中で狂喜乱舞してしまった。

こんな風に、そのほとんどが失敗に終わるにも関わらず、従順に電波を受信しようと試みる電波時計。本当に、毎日ご苦労様である。
そんな電波時計の労をねぎらうべく、電波を思いっきり受信できる場所に連れて行ってあげよう! と思うのは、人間の感情としては間違ってないだろう。いや、むしろ連れて行かせて下さい! と願い出たいほどである。

そんなわけで、これら2台の電波時計を携えた私は、一路福岡へ向けて旅立ったのであった。

はがね山標準電波送信所への道

「はがね山標準電波送信所」は、福岡市内から車で約1時間半、そこから徒歩で1時間ほど山を登った先にある。普段あまり運動しない私にとっては、決して楽な道のりではないけれど、電波時計のことを思うと足取りが軽くなる。
待ってろよ、もうすぐ存分に電波が受信できるぞ!

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はがね山への登山口には、「白糸の滝」という観光名所がある。そこの駐車場にレンタカーを止めさせてもらい、いざ山の頂へ。

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多くの親子連れがヤマメ釣りや流しそうめんに興じるのを横目に、私(と電波時計)はひと気のない道へと足を踏み入れた。

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送信所への道は、自動車も通れるよう舗装されているため、歩きやすい。送信所の職員にとっては、通勤路ともなる大切な道である。

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そんな道を10分ほど進むと、看板の群れが現れた。ここから先が、送信所専用道路である。

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看板にも書かれてある通り、ここからは立入禁止なのだが、よく見ると「登山者以外の」という但し書きが付いている。後で分かったのだけれど、この送信所内には羽金山の三角点があるため、登山者だけは通行を許可してくれているようだった。
そのありがたい措置に感謝しつつ、そのまま中に立ち入らせてもらう。

しかし、ここまで来ただけで、私の身体はすでに汗だくになっていた。特に、普段持ち歩かない置き時計を2つも持っていることが、多少の負担になっていたのは確かである。とは言っても、ここで挫けるわけにはいかない。「いやいや、苦労して電波時計を連れて行くことに意味があるんだ!」と自分を奮い立たせた。

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途中、「デッカ橋」と手書きされた橋(たぶんデッカ橋)を渡ったりしながら、単調な道を登ることさらに数十分……

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あ、アンテナが見えてきた!

ここから先は、あっという間であった。
そして大阪を出発してからおよそ6時間30分、ついに念願の「はがね山標準電波送信所」に到着した。

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いざ送信所の敷地内へ

門のところのインターホンで中の人に連絡すると、送信所の敷地内に入れてもらうことができた。

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さすがに真下から見上げるアンテナはど迫力だ。なんと言っても、でかい! 高さは200mあるという。まわりに何もないので、その大きさが分かりにくいのだが、200mというと東京タワーのおよそ2/3である。かなり広角のカメラを使わないと、全景が抑えられない。

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アンテナからは、何本ものワイヤが伸びている。これら全てが合わさって、アンテナとして機能しているという。全体を見ると傘みたいな形になっているので、こういうのを傘型アンテナと呼ぶらしい。

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改めて送信所の全景図を見ると、200mのアンテナが立っている局舎を中心に、各ワイヤにアクセスするための道が延びている。RPGのマップみたいで面白い。

それにしても、ここが大阪で受信していた電波の発信元かと思うと、電波時計でなくとも興奮してしまう。ましてや、電波時計にとっては、この場所は聖地とも言うべき重要な場所である。電波時計の興奮たるや、いかなるものだろうか。

さて、ここからは念願の電波受信タイムに移ろうと思う。

標準電波について

……と、その前に、電波時計が受信する標準電波について少し調べてみた。せっかく受信するのだから、それがどんなものか知っておいても損はないだろう。

情報通信研究機構のウェブサイトによると、標準電波送信所から送られる標準電波には、タイムコードと呼ばれる時刻情報が乗っている。電波時計は、そのタイムコードを見て時刻を合わせているようだ。(かなり大雑把な説明なので、詳細が気になる人は自分で調べてね)

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(クリックで拡大)

タイムコードは、現在の時・分、1月1日からの通算日数など、現在時刻を表す60bitの情報である。そしてこれは、毎分0秒から1秒ごとに1bit、つまり1分間かけて全60bitが送信されている。そのため、電波時計の時刻合わせには、最低でも1分はかかることが分かった。

また、ノイズなどの影響によって、正しくタイムコードが受信できない場合がある。そのため、通常はタイムコードを複数回受信することで、その精度を上げているらしい。この辺は時計によって違うので正確には分からないのだけれど、最高の環境で電波を受信したとしても、少なくとも2~3回のタイムコードを受信、つまり時間にして最低でも2~3分はかかると見てよいだろう。

さて、私の電波時計は何分で時刻合わせが出来るのか、これも楽しみにしておこう。

念願の電波受信

そして、いよいよ受信の時が来た。はるばる大阪から持って来た電波時計を取り出し、セッティングにかかる。

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ここで、標準電波受信によって時刻がピッタリ合うのを確かめるため、2つの時計を次のように準備した。

 ・左の時計(SEIKO)は、あらかじめ正確な時刻に合わせておく
 ・右の時計(CASIO)はわざと時刻をずらしておき、その状態で電波を受信
  → 成功すると、2つの時計の時刻がピッタリ合う

その贅沢な電波受信の様子は、是非とも動画でご覧頂きたい。


結果、右の時計(CASIO)で標準電波を受信し、見事3分10秒ほどで時刻の修正が完了した。

動作を見てみると、まず標準電波を2回受信し、3回目の受信のラストでタイミングを計って時刻を合わせるという、理論的にもほとんど最速と思われる、かなりの好タイムをたたき出している。

こんなにも贅沢な環境で標準電波が受信できる電波時計は、おそらく数億個に一個くらいなものだろう(憶測)。電波時計も、気持ち嬉しそうに見える気がしないだろうか。ああ、本当に電波時計を連れて来てよかった! そう思える至高の瞬間であった。

(もちろん、もう一個のSEIKOの時計の方も電波を受信させました)

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そんなこんなで、私と電波時計との旅は無事に終わったのであった。
電波時計は、また電波的に不自由な生活に戻るであろう。しかし、「はがね山標準電波送信所」で標準電波を受信した思い出は、いつまでもその心の中(クオーツ?)で生き続けるだろう。たぶん。

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私と同じく、電波時計を連れ出したい方、または電波時計が電波を受信しないとお悩みの方も、ぜひ「はがね山標準電波送信所」に行ってみて欲しい。ちなみに職員の方の話によると、敷地内の草むらにはマムシが出るらしいので、同じようなことをされる方はご注意を!

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最後に電波時計と一緒に記念撮影した。

(※記載の内容は、2014年6月15日時点の情報です)